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片棒の夏

・ここの更新は滞っているけど文章自体はかなりの量を書いている。7月から毎日、3種類の日記を書いているからだ。まずは立川吉笑GROUPで公開する用の日記を書く。これは感じたことや遭遇したことを漏れなく書くつもりで。そのマスター原稿を、ぎゅっと短くまとめたものを『ひとり会』で配布する当日パンフレット用に、創作に関わることを中心にピックアップして、考えたことや感じたことをさらに色濃く書き出したものをソーゾーシーの制作日誌用にそれぞれ用意している。下手したら「日記を書いた」という日記を書く羽目になってしまうくらい、とにかく毎日の日記を書いている。だからこっちのブログにまでは中々手が回らないでいる、という言い訳。

 

・最近、師匠の『片棒・改』をやり始めた。8月に入ってからは出番の7割くらいは片棒をかけて、トライアンドエラーを繰り返している。師匠と僕とでは当然持ち味が違うから、師匠が自分のために作って、自分のために磨き尽くしたこのネタは、そのままやるとどうしたって僕にはフィットしない。しかも、師匠の十八番の中でも特に僕の持っていない要素がふんだんに詰まったネタだから、もうそれはそれは致命的なくらいに合わない。

 

・例えば。冒頭、二行目でオカマキャラが登場する。このオカマキャラがまずは僕の持ち合わせていない色になる。ロジック重視で噺を構築する僕のネタには基本的には過剰なキャラは出てこない。だから、もう二行目から早くも慣れないことに挑戦することになる。

 

・大好きなネタで、客席からも舞台袖からもたくさん聴いてきたネタだけど、実際にやってみると感じ方の解像度がグッと高まる。何気ないセリフが実は演じる上で大事なポイントになっていたり、自分では思いがけないようなクスグリの入れ方や角度に必然性があると分かったり。それらをより体感できるように最初は自分のやりやすいように内容を変えず、できるだけオリジナルに忠実にやった。今はそこから少しだけ自分の持ち味でも表現しやすいように細かいところに手を入れ始めた感じ。昨日のマゴデシ寄席でやった形が当然今の所一番しっくりきている。

 

・このネタは刺激的なワードがいたるところに埋め込まれている。時事ネタや手軽なメタ表現などもふんだんに入っている。これが僕にとってはとても新鮮だ。というのも普段の僕のネタではそういう要素は意識的にできるだけ排除するようにしているから。僕の得意なネタの形は、まずは1つ大きな切り口・設定を用意して、その仕掛けが一番鮮明に見えるように全体を構成することで、となると目線が散ってしまう(ように自分は感じる)刺激的なワードや仕掛けに無関係なメタ要素はできる限り使わない方がいいと思っていて、つまりは師匠の片棒・改で使われている手法はまずやらない。というか作れない。

 

・そんな中、このネタをやると刺激的なワードがもたらす効果を身を以て体感できる。とにかくノーモーションで次々と強烈な言葉が繰り出されるから、フリのあとにオチが合って、そこでドカンとウケる、という基本的な部分以外に、一度このネタと呼吸があったお客様はもうワードが飛び出るたびにクスクスと笑い続けてくださる。従来の僕のネタでジャブに位置付けているような何気無い部分が、ストレートくらいの威力を持っているから、僕の作るネタではありえない数のパンチを打つことができる。そして中盤の例の仕掛けの心強さは実際にやって見たら頼もしさしかない。こんなネタを前座の時に作った師匠はバケモノだ。

 

・自分もネタを作るからか、やっているうちにどういう意図で若き日の師匠がこの言葉を選んだのか。どうしてこういう構成にしたのかが何となくわかるようになってきた。前にも書いたように二行目でいきなりギアがグンと入るのも、たぶん師匠がこのネタを作った頃の落語界は今では想像もつかないいくらい自分らしさを落語に込めたいタイプの噺家にとって閉塞感があって、そんな状況で自分が目指す落語家になるためには、高らかに「俺はこういうネタをやりたいんだ!」と宣言する必要があったのだと思う。そういう決意の旗印として二行目で早くもギアを入れるという選択をされたのだろう。師匠はじめたくさんの先輩方の戦いのおかげで今はそういう閉塞感を感じることなんてほとんどなくていつでも気持ちよく高座に上がらせてもらっている。だから、僕が好きにネタを作るとむしろ最初はめちゃくちゃローから始めて、歪さで空気を溜めに溜めてから、解放するべく強いパンチを打つ、という構成になることが多い。

 

・もし師匠がいまの落語界に僕と同じくらいのキャリアでいたらどんなネタをやるかなぁと考える。きっと僕とは全然違う角度から自分らしい落語を突き詰めていかれることだろう。そう考えると、何となくやれる事ややりたい事が固まってきつつある自分も、もっと思いも寄らないことに挑戦していいんだと思わされる。さらには、今自分がやれていることの強さも再確認させてくれる。これは思わぬ副産物だった。

 

・話は変わるけど、最近は加賀屋さんにハマりまくっている。15分でネタを作って実演までする生配信が凄すぎた。キングオブコント、今年は決勝に進出されるだろうなぁ。あとは養老先生の帯が気になって買った斎藤亜矢さんの『ルビンのツボ』というエッセイ集がすこぶる面白かった。寺田寅彦と同じ棚に仕舞っておいた。それから『三体』も、『天気の子』も。

 

 

 

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