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MOROHA

・先日、MOROHAとツーマンライブをやらせてもらった。こちらからしたら二人会と言いたいところだけど、向こうの企画に呼んでもらった形だからツーマンライブということで。

 

 

・2014年、確か3回目の「吉笑ゼミ。」のゲストにMOROHAを呼んだ。2010年に入門して後輩が少しずつ増えてきた当時、飲み会の2次会としてよく家に後輩を連れてきて、薄い水割りを飲みながらひたすらオススメの曲を聴かせ続けるみたいな夜をたくさん過ごしていた。その中にMOROHAの曲も入っていた。まだ何者にもなれていない若手芸人にとって「恩学」とか「三文銭」は嫌が応にも突き刺さる。

 

 

 

 

・2014年、ちょうど僕の熱量がグワァっと高まっている時期で、熱量お化けのMOROHAと真正面からぶつかってみたいと思って一方的にオファーメールを送った。きちんと想いを綴れば届くと思った。

 

 

・しばらくして届いた返信にはこちらが提示したギャラだと正直受けられないと書かれていた。そして、現実の範囲内で希望の予算が書かれていて、そんなの自腹を切れば良いだけだから数秒後に「その金額で大丈夫です」と返信をした。金銭的な理由で、明らかに何かしらの才能を持っていた仲間がどんどん表現の道を去っていくことにやるせない気持ちを抱いた僕は、きちんと表現することを持続可能な状況に自分たちを持っていく姿勢に共感した。僕が落語家を目指した理由の一つもそういうところにあるから、これは価値観が一致していると思った。

 

 

・当日。リハをするMOROHAを見て、その威圧感が真打の師匠レベルだと痛感した。袖から観える脱がれた羽織から立ち上る気迫みたいなものが、MOROHAの背中にもあって「あぁ、この人たちはもうこんなレベルに達しているんだなぁ」と思ったのを覚えている。

 

 

・数年後。2016年。今度はMOROHAのライブに呼んでもらった。場所は新宿MARS。イベントタイトルは「怒涛」。音楽イベントで落語をやるのはかなり分が悪い。立ちながらだったり、色々なノイズが混じりがちなライブハウスで落語をやるには、落語の圧力は弱すぎる。でも、躊躇することなく、二つ返事で出ることにした。提示されたギャラは、当たり前のように前回僕が支払ったの同じ額で嬉しくなったのを覚えている。そして、僕がそうしたように、MOROHAも落語に最上級の敬意を払ってくれるの目に見えていたから特に心配もしていなかった。

 

 

・当日、リハでMARSの舞台に上がると、客席半分くらいにイスが敷き詰められていた。こっちに合わせて着座席中心のイベントにデザインされていた。となるとこっちは全力で自分の落語をぶつけるしかない。観客を盛り上げるためだろう前説のようにまずはMOROHAのミニライブからイベントは始まった。数曲歌って落語の出番。持ち時間はたっぷり50分。袖でMOROHAのライブを聴きながらまくらの構成を考える。鉄板ネタを3席用意していて、反応を見ながらそのうちの2席を選ぶ。あとはその2席とイベントとをスムーズに繋ぐまくらの流れを時間が許す限りシミュレーションするだけだ。

 

 

・と思っていたら、ミニライブの最後に「三文銭」が始まった。「あー、これはやってくれたなぁ」と思った。アウトロで扇情的なMCが入るこの曲をこのタイミングでやるってことは本当に手加減なしということで、「マジか」と焦りつつ、同時にその心意気が嬉しかった。全力で2席。自分が持っている一番重い右ストレートを振り抜き続けた。そのあとのMOROHAのターンで「四文銭」を初めてライブで聴いた。

 

 

 

・それから3年が経った。途中京都の音楽フェスでニアミスした。僕はロビーで落語やっていたそのイベントで、MOROHAは当然のようにメインステージに立っていた。大きなライブハウスでの単独公演は軒並みソールドアウト。対バン相手は僕が昔から好きだったアーティストの名前がズラッと並ぶようになって、ついにはメジャーデビュー。テレビでは今田耕司さんがMOROHAと楽しそうに絡んでいた。

 

 

・そんなMOROHAにまたイベントに呼んでもらった。それが今回のツーマンライブ。会場に入ると物販用のスタッフ。スチール。ポレポレまで観に行ったMOROHAのドキュメンタリーを監督されたエリザベス宮地さんが当たり前のようにカメラを回している。レーベルのスタッフさんと、レコード会社のスタッフさんに挨拶された。レーベルとレコード会社が一体どう違うの僕にはさっぱりわからないけど、とにかく挨拶をした。

 

 

・暗い楽屋からMOROHAのリハを眺める。5年前は真打クラスの威圧感だと驚いたけど、もはやそれに驚くこともなくなった。当然そうに決まっているから。リハ終わりで最近のMOROHAのライブレポートをよく目にする媒体の方からインタビューを受ける。あー、このライブもその対象に入れてもらえるのかと理解する。喋る。

 

 

・この5年で随分、僕は変わった。自分としてはそれを当然成長と思いたいけど、果たして本当にそうなのかは自分では分からない。技術的には上手くなっているのは間違いないし、場数由来の経験値も当然ながら高くなっている。それでも当時くらいの尖った気持ちが今の自分にはないと、自分でも気づいている。酒をやめちゃったり、婚約したり、いい部屋に引っ越したりして、当時の僕が見たら「ケッ」と毒づく対象に今の自分がなる気がしなくもない。

 

 

・インタビューで喋られたことや、楽屋で喋ったこと。その後のライブを見て、少なくともMOROHAの根っこはあの時と全然変わってないなぁと思った。相変わらずイライラされていて、納得が行ってなくて、焦っていて、それを全力でマイクにぶつける。どうなんだろう、そういうヒリヒリした感情が良い落語をやることにつながるかどうかは結構危うい気がする。だけど、自分が好きな表現者はそっち側の人だったし、今も客としての自分はそういう演者にグッとくることが多い。となると、少し自分のやり方をもう一度見直した方がいいのかも、と思った。

 

 

 

・昨晩から10月頃に披露するためのネタ作り始めた。自分なりの夢ネタ。「桜の男の子」は深い階層からどんどんこっちに近づいてくる噺。「明晰夢」はどんどん深い階層に行くけどそれがループしてくる噺。それらと違う、自分らしさが詰まった夢ネタを作ろうとしている。表に出すかどうかは別にして、あの頃みたいなヒリヒリした自分はもう少し大事に育ててもいいのかもしれない。

 

 

 

 

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