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五派で深夜

 先日、末廣亭での『五派で深夜』に出演させて頂いた。二ツ目に昇進したときに1度出演させて頂いて以来2回目の末廣亭で、普段は踏み入ることの出来ない場所なので、そんな場所に入れるだけで感動してしまう。また今回は左吉兄さん・鳳笑兄さんという初めてお会いする兄さん方に加えて、渋谷らくごなどで最近ちょくちょくお会いさせて頂いている松之丞兄さん、そして落語家としては数ヶ月後輩に桂三度さんという、強力な顔付けだったので緊張半分楽しみ半分に会場へ向かった。

 と無難な社交辞令はおいておいて、やっぱりどう考えても三度さんと現場でお会いできる、ということを意識しなかった訳がない。もともと「笑い」が大好きで、現在落語論でも書いているように笑いを中心とした落語の新しいあり方を模索している最中の僕だし、三度さんも出演された『プロペラを止めた、僕の声を聞くために。』はいまの所、僕が一番好きなコントライブDVDだったりするから、こちらからしたら後輩というよりも当然笑いの世界の大先輩という風に感じてしまうのは当たり前だったりする。

 開演前に一度ドトールで皆さんと合流して、そこでチラシの折り込みをしたり順番を決めたりするのだけど、当然そこへ三度さんも来られて、そんな広くない店内にもちろん普通のお客さんがいる状況下で5人でチラシの折り込みをしたり、初対面の方に折り目正しい挨拶をしたり、ドトールの客としては奇妙な振る舞いをするから他の方の目につきやすいのに、当たり前だけど三度さんは一番後輩としての振る舞いを普通にこなされていて、わー、と思った。
 ジャンケンの結果トリになった三度さんは出演者で持ち回りする受付業務だったり、開場前のお客様の入場待ちの列整理だったりも普通にこなされていた。

 本当は自分のネタを聞いて頂きたかったのだけど、なぜか楽屋モニターの調子が悪く2番手の僕が高座に上がっているときは受付をされている三度さんには全く高座を聞いて頂くことはできなかった。高座自体は『舌打たず』。自分としてはちゃんと力を発揮できたし、前のめりなお客様との呼吸も気持ちよく合わさり、相当気持ちのよい時間を過ごさせて頂いた。前回は『狸の恩返し過ぎ』をやったのだけどやっぱり『舌打たず』の方が自分らしいネタだし、そんなネタを末廣亭でやれていること、また普段は僕の会や立川流絡みの会にはいらっしゃらないような、初めましての保守本流の落語ファンの方々にこのネタを聞いて頂けたことが嬉しかった。

 高座終わりで楽屋に戻ると受付業務を終えられた三度さんから「何のネタをやられたんですか?と」話しかけて頂けて、「新作です。」とお答えした。
 「あっ、新作をやられるんですか」と返答がきたので、高座後で気分が高揚していることも相まって、いまちゃんとお話するべきだと思って、元々お笑いの方向で仕事をしていて色々とニアミスしていたことなどをお伝えすると「なるほど、やっぱり。」という予定外の返事が返ってきた。聞けば、「噺家が闇夜にコソコソ」を見てくださっていたようで、大喜利の言語がいわゆる落語家のそれじゃなくてお笑い側のもので「感覚が近いなぁ、と思ってました」ということだったり、「そのTシャツ、榎本俊二ですよね。それ見てやっぱり完全にこっちの人やと思っていました」と。わー、と叫びそうになってしまった。
 会の方は4番手松之丞兄さん、そしてトリの三度さんという並びが自分としてはたまらない流れなので楽屋で耳かっぽじって聞いた。松之丞兄さんがドカンドカン沸かせているのをどういう気持ちで聞きながらネタをさらわれているのかなぁ、とか。

 会が終わって、お忙しい先輩方が帰っていかれる中、番頭として出番が無いけど色々な手伝いにきてくださっている吉好兄さんと三度さんと会場の表に出た。3人で駅へ向かいながら、渋谷らくごでご一緒になって以来2度一緒にお酒を飲ませて頂いている吉好兄さんが「吉笑くん、軽く一杯いく?」と誘ってくださったので「ぜひお願いします」と打ち上げにいくことになった。内心、三度さんとも飲みたいと思ったし、たぶん兄さんも誘いたいと思っておられたのだろうけど、いくら落語家としては後輩とはいえ当然やすやすとは誘いにくい感じもするし、精一杯「三度さんはどちらにお住みなんですか?」みたいな質問をされている兄さんの心中をお察ししながら、交差点について我々は左へ、三度さんは右へ進むことになった。「お疲れさまでした」と三度さんと別れてすぐに「兄さん、三度さんも誘ってくださいよ」とおねだりした。「というか、誘いたかったけどビビって誘わなかったですよね」と。「だって無理だよ、やっぱり。」「いや、ダメ元でいってくださいよ〜」「やっぱり不自然だった?」「不自然でしたし、俺、ぜひ飲みたいので戻って、ダメもとで誘いましょうよ」と、プチ会議をした結果、「よし、戻ろう」ということになって、二人でUターン、小走りで別れた方向へ向かったらまだ三度さんがおられて、兄さんの横腹を肘でトントンして「兄さんお願いします」と暗に促して、そして兄さんが勇気を振り絞ってくださった結果、3人で飲みにいくことになったのだった。

 結果、2件ハシゴして前日からお忙しくて睡眠不足気味だった兄さんが寝落ちされた4時頃まで3人であーだこーだお話させて頂いた。お酒が進むうちにいつもどおり僕は開放的になっていくので、いかにプロペラに影響を受けたかとか、ひとりごっつとビジュアルバムにはそれ以上に影響を受けたとか、大喜利の話とか、当然落語の話とか笑いの話とか、自分のネタの作り方とか、本当に色々とお話させて頂いた。こちらが影響を受けているのだから当然だけど、初対面とは言え言語を共有できているから、本当に色々な話を結構踏み込んでさせて頂いた。とても楽しかった。

 吉好兄さんと僕という、若手落語家の打ち上げだから、当然そういうお店に行った。つまりそんなに高くないお店。そうなると、もちろん個室とかじゃないし、しかも休日の新宿だからお客さんも多いしテーブルも近いから結果、一番後輩ということで気をつかって隙があれば気働きをしようとされていた三度さんが何度も「三度さんですよね?」「握手してもらっていいですか?」「写真とってもらっていいですか?」みたいに声をかけられていて、恐縮しながら対応されている三度さんを横目に吉好兄さんと「やっぱりそうだよね、、」とアイコンタクトした。
 高座含めて、楽しいだけでは言い表せない思い出に残る1日となった。