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吉笑ゼミ。

 『第3回 吉笑ゼミ。』無事に終わりました。
 ご来場頂いた皆様、本当にありがとうございます!

 前回を下西さんにお願いした瞬間から、今回はMOROHAさんしかないな、と思っていました。『吉笑ゼミ。』の持つ、アカデミック側とエンターテイメント側の両端をこれで見極めることができるだろうと思ったからです。

 結果的に今思えば夏のお台場新大陸の過酷な環境もプラスになったのかもしれませんが、その後の数ヶ月間、自分としては『熱量』が大事なテーマでした。そして、唯一の武器でもありました。落語会の近しい先輩から、最大出力が増えたな、と嬉しい言葉をかけて頂いた事もあったし、自分自身でも良い面悪い面含めて自分の振る舞いの風圧があからさまに高くなっていることに気付いてもいました。

 今回、MOROHAさんをゲスト講師にお招きするにあたって、テーマは『熱量』になるだろうなぁと思っていました。もちろんリリックの内容をフックに落語にしようかと考えもしましたし、例えばヒップホップという切り口から落語を拵えようかと思ったりもしましたけど、結果的にはとにかく『熱量』のぶつけ合い、というのが一番良いのじゃないかと。

 お客様にはどう映ったかは分かりませんが、今日、リハーサルでのMOROHAさんを見て、あまりの圧力に、あぁこの人たちと熱量でぶつかり合うにはまだまだ僕の風圧が足りていないなぁと痛感させられてしまいました。10月の、それこそラジオ特番の収録をしていた頃の僕だと、また違うように感じたのかもしれませんが、あれからわずか1ヵ月くらいの間で、元々波がある僕はすでに最近は風圧が低下気味なのでした。自分の持久力の無さにむしろ笑えてさえ来ました。
 それでもやれることはやったし、自分の持ってる熱量は出し切れたと思っていますが、当然ながらMOROHAさんのパフォーマンスの強度は圧倒的で、それこそ『頑張れ!』と頬を張られた気持ちにすらなりました。それだけでも、今回MOROHAさんとご一緒できた甲斐があります。

 ネタは最終的に『カレンダー』と『だくだく・改』になりました。どちらも僕の中では現実脱出論です。

 『だくだく・改』は友達で興幻◎しという意味の分からない肩書きで活動している本名竜也くんと一緒に拵えました。もともと坂口さんの『独立国家のつくりかた』だとか0円ハウスのような一連の思想に触れていくなかで、態度経済をテーマにした落語を作ろうと思っていました。坂口さんにもその旨直接話したこともあります。
 少し考えてすぐに『だくだく』の持っている着想の強さと、坂口さんと関係の深い『ホームレス』とが結びつき、そのあたりのアイデアをネタ帳にしまっていました。その矢先、坂口さんが三三師匠の前方で落語を演られたこと、そしてその時のネタが『だくだく』と『文七元結』を下敷きにしたものだったと伺って、あぁ、先にやられちゃったな、と思いました。

 そのまま数年が経って、MOROHAさんがゼミに出演してくださると決まって何をやろうかなぁと考えていた時にちょうど興幻◎しの本名くんと一緒に作品を作ることになりました。彼の表現スタイルからどう考えても落語に音を足すことになるのだけど、ただ効果音を足すことは避けたいなと直感で思いました。それを言葉でやるのが落語の凄さなのですから。
 どうしたもんかな、と考えていた時に、数年前に考えていた『だくだく』×『ホームレス』の切り口と、そこに音自体が幻だという設定を加えれば良いのだと閃きました。

 『だくだく』×『ホームレス』という切り口で少し考えていたのは、古典同様、壁に絵を描いてあるつもりになって暮らすのだけど、絵の得意な連れのホームレスにお願いしたらタッチが劇画調だったり、赤塚不二夫みたいなコミカルな感じだったり、抽象画みたいな感じだったり、そのあたりの羅列で展開していく感じになるなぁ、でもそれだけだと弱いなぁと思っていたのが、興幻◎しと一緒にやるならこうなるかな、と考えていった方向がグッとくる感じになっていき、そこに坂口さんの現実脱出論という下敷きも増えたことで、今回の形になったのでした。ちょうどそのころNHKのドキュメンタリーで観たバーニングマンフェスティバルも大事な要素の1つとなってくれました。

 心残りはトークコーナーで僕が無難な立ち位置をとってしまったことです。時間もあまり残っていなかったこともありますが、何より僕がMOROHAさんのことを好き過ぎて、MOROHAさんのことをお客様に知ってもらおう、という気持ちが強く働きすぎてしまい、インタビューなどですでに知っていることを知らないフリをして聞き出そうとするみたいな中途半端な誘導尋問を試みてしまいました。『成功して、不満がなくなったらどうしますか?』とか『ギターとラップだけのスタイルについて』とか。すでにWEBに転がっていたインタビューとかで解答を目にしていたのに。本当ならそんなことなどせずに真っ向から腹を割って話すべきだったのに、僕がトチ狂った方法をとってしまいました。しまった。

 笑ってもらいたい、という気持ちからなのか、このイベントでは必要以上に馬鹿なフリをしてしまう傾向があって、そのあたり、どういう立ち位置で行くべきかちゃんと考えた方がいいかもしれないと思いました。
 マクラで喋った森田さんからの『自分で自分を笑わせられますか?』という問。アフロさんは『自分を幸せにできますか?』という目線を与えてくださいました。あの場ではノックアウトされたような描写の方が面白いかなと思い僕は僕の答えを述べませんでしたが、『自分で自分を笑わせられますか?』という問から僕は『自分ではない自分になれるかどうか』ということを考えました。

 もっとこうしたら良かった、ああしたら良かった、というのは当然たくさんありますけど、それでも今回の『吉笑ゼミ。』は大成功だったと思います。いや、今回”も”大成功でした。

 家に帰ってきて、かわら版を何気なくみたら、昨日は同時刻に20個くらいの落語会が催されていました。その中で100人近いお客様に集まって頂けたことは嬉しいし励みになるし、なにより、その中のどの会よりも我々の『吉笑ゼミ。』の方が面白かっただろうなぁと本気で思えている自分がいて、そのことが何より嬉しく思いました。

 重ね重ねになりますが、ご来場頂いた皆様ありがとうございます。
 そしてMOROHAさん、ありがとうございます。

 このタイミングでMOROHAさんとご一緒できたことが、来年に活きてくる気がしてなりません。

 次回の『吉笑ゼミ。』はたぶん3月だと思います。
 来年は『吉笑ゼミ。』に匹敵する、また新しい動き方を用意することになると思いますが、それと平行して引き続きゼミにも取り組んでいきます。ぜひ遊びにいらしてください。