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渋谷らくご

 今月から始まったサンキュータツオさんがキュレーターを務められている『渋谷らくご』という落語会に出演させて頂いた。この会はオーディトリウム渋谷の跡に出来た、ユーロライブというユーロスペースが運営する新しい劇場で毎月定期的に開催されるらしい落語会で、立地とか文脈とか含めて普段の落語会とは少し違う客層というか雰囲気というかそういう感じの会なのだった。
 スケジュールが緩いというのが一番の理由だろうけどありがたいことに皆さん1回、多くて2回の方がチラホラいらっしゃるなか、僕だけ3回も出演させて頂いたのだった。

 まわりの落語家さんからしたらイレギュラーな仕事だろうけど、僕からしたらホームゲームというか、常々目指している方向に近い仕事だったので確かに適任だろうな、と自覚もあったし、タツオさんの起用に応えるべく、きっちりやれることを提示しようと思いながらの3ステだった。
 こういう場所でありがちなのは演者自身が戸惑っている感じを出して、要はアウェー感ややらされている感を出す方法なのだけど、それはこのイベントの本意では無いと僕は感じたので、とにかく正面からぶつかることにした。とはいえほとんどの落語家にとってこの手の仕事はイレギュラーであって、翌日からはまたホームのいわゆる落語界で活動していくわけだから、なかなか波風立てにくいことも分かるけど、幸い僕は普段からそういうTHE落語界とはまた違ったレイヤーで動こうとしているから、振り切ることができた。
 「ランクやキャリア関係なく、4人が30分の持ち時間でパフォーマンスする」というパッケージである以上、求められてるのは他の演者の事など考えずに自分のベストパフォーマンスを4人がきっちりするのだと思うし、僕が客だとしたらそういうバチバチした感じを観たいから、そのあたりは踏み込むように意識した。とは言え、僕も落語界の人間なのでさじ加減は意識するけど。

 ということで、今月の出番はまず昇々兄さん、市楽兄さん、鯉斗兄さんとの回。この後の夜の部も僕はでる事になっていたから会場の方が気を使ってくださったのか、一番後輩なのにラスト出番で上がらせて頂いた。本来ならこのパッケージなので出番がトリだとかどうか何かは関係なくどの出番も並列で勝負できるのだろうけど、それでもやっぱりトリというのは気持ちが引き締まるのだった。はじめての渋谷らくごだったのでまずは自分らしい高座をと思い、今年の勝負ネタである『ぞおん』を。攻めようと思ったら幻想シリーズのマクラから繋げるのだけど、さすがにトリだから確実に楽しんで帰って頂こうと、とっつきやすいマクラ構成で。結果この回が今月の出番の中ではベストの出来となったのだった。初めてお会いした鯉斗兄さん、経歴的に怖い方なのかなと思ったら、とても気さくな方だった。普通に友達にみたいに笑いながら話してくださった。

 その次は宮治兄さん、歌太郎兄さん、圓太郎師匠との回。みなさん古典の方なので、ここで好き勝手な高座をやると明らかに自分だけが浮くし、それは別に良いとしてトップ出番で浮いてしまうのは見難いと思ったので、この回は自分の中でもとりあえず落語界に寄せたネタを、と『狸の恩返しすぎ』。マクラも広小路亭とかでやる用のパターンで。なおかつ時間が押していたので、ひとまずきっちり予定時間に終わって後ろの先輩方に繋ごうという感じの高座を。さっきと書いてることが違うけど、やっぱり落語家はサービス業でもあるので、このあたりのバランス感覚はこんな僕でもまだ持ち合わせてはいる。初めてお会いした圓太郎師匠、噂は聴いていたけど、落語凄かった。龍志師匠の高座を聴いてるときの感じというか、僕レベルでも明らかに上手いのが伝わってきて、感動してしまった。こういう機会を得られるのもこの会のありがたいところかもしれない。

 そして今月最後の出番が一番高ぶった。何しろ、僕の後に上がられるのが扇辰師匠、志ら乃師匠、一之輔師匠という並び。ここで気持ちが高ぶらないのは芸人としておかしい。師匠方目当てのお客様もたくさんいらっしゃるであろうこの回こそ、ガツンと攻めるのが渋谷らくごの正しい姿勢だと思ったので、この日はいつも以上に踏み込む構成にした。本当は『ぞおん』がやれればベストだったのだけど既にやっていたので『粗粗茶』。いくつかの候補で迷ったのだけど、入りが落語っぽい方が驚いて頂けるかなと思ってのチョイス。マクラはこの会で毎回やってるいびつなツカミから『フェイント落語』、そして幻想シリーズから『カレー』という今持っている僕のマクラのパターンを全部出した。この構成はたぶん初めてだと思う。若手が無茶やってる感もブーストできたらしく、マクラもネタもとても気持ちよく進んでいったのだけど、ネタの終盤がダレてしまった。あちゃー、と思った。それでもバッチリ役割は果たせたと思う。
 それくらい引っ掻き回したつもりだったのに、まずお後の扇辰師匠が最初の3分くらいで空気を整えてまさかの『雪とん』をガツンとかまされて、その後の志ら乃師匠はマクラで引っ掻き回したあと『火焔太鼓』でドカンドカン、そして一之輔師匠は逆に押さない形の『笠碁』でガッツリ、と、当たり前だけど師匠方のパフォーマンスが凄過ぎてお客様には僕の印象などほとんど残らないのだった。やっぱり凄いなぁ。

 帰ろうと思っていたら、ありがたいことに一之輔師匠に飲みに誘って頂いた。一之輔師匠とは落語会でご一緒することすら今回が2回目で、当然飲みに連れて行って頂いたことも無かったので、ましてや二人きりだったのでめちゃくちゃ緊張しながら、それでも思い切って色々と質問させて頂いたのだった。夢のような時間だったなぁ。
 そうこうしてると仕事だったタツオさんとユーロライブのスタッフさんが合流され4人で遅くまで飲んだのだった。帰りはお酒を飲まれなかったタツオさんに車で送って頂いた。ありがたすぎる1日だったなぁ。

 来月以降も呼んで頂けるようなのできっちり自分の役割を果たせるように準備しておこうと思う。渋谷らくご、刺激的なイベントだと思うので、ぜひ遊びにいらしてみてください!