2014.05.21 Wed
日常
紙魚
昨日の夜中、部屋に見たことのない虫が現れた。1cmくらいの細長い大きさで、シャコみたいな形をしていた。twitterに写真をアップするとすぐに『紙魚じゃないですか?』という返信があった。紙魚と書いて”シミ”と読む。事実、このワープロでも”シミ”と打って変換したら紙魚と出て来た。紙魚、初めて聞いたし、初めて見た。
本当かなぁ?と思い、ウィキペディアでも調べてみたら、ご丁寧にも画像付きで書かれていた。すぐに目に入った画像がまさしく僕の部屋にいた見たことのなかった虫だったので、やっぱり紙魚らしい。何となく紙魚について調べているうちに、この虫が本を食べるのだと知った。だから紙魚という名前だそうだ。紙は良しとして魚というよりは虫だろうと思ったりもした。
ちょっと気になって、紙魚が歩いて来た方向を見ると、ちょうど本棚だったので嫌な予感がした。すぐにいくつかの本を開いて確認したらやっぱり。何冊かの本が紙魚によって食べられていた。あちゃーと思いながら食べられた跡を見ていて、あることに気づいた。
『この紙魚、読点しか食べていない』
どうやらうちにいた紙魚は読点が好きみたいで、句点はまったく食べられてないのに読点はそのほとんどが食べられていたのだ。僕は普段本を読むとき、あまり読点を意識しないから気づかなかったのだけど、きれいに本から読点だけが消えているのを改めて認識すると、もう、どのように読んでいいのか分からなくなってしまって困った。紙魚は、読点が多い文体の太宰なんかが特に好物とみえて、本棚に置いてあった太宰の文庫本は軒並みやられてしまっていた。こりゃだめだ、と思い、紙魚に食べたものを吐き出すよう説得に向かったら、タイミングよく、部屋の片隅で紙魚が食べたものを戻していた。色々な読点をむせながら吐き出す紙魚の背中を摩りながら「どうしたの?」と聞くと、読点と間違えてどうやら”な”の右上の点を食べてしまったとのこと。
「ぼく、”な”の右上の点アレルギーなんです〜」
と言いながら、紙魚は苦しそうに戻し続けたので、とにかく落ち着くまで背中をさすってあげた。幸い、食べられた読点すべてが戻ってきたからそれを本にくっつけていたら、読点好きの紙魚の仲間なのだろうか、別の一回り大きな紙魚が現れた。嫌な予感がして、その大きな紙魚が歩いてきた方向を見ると、やっぱり本棚があったので急いで何冊かの本を調べてみたら、バガボンドの背景だけが食べられていた。どうやら井上雄彦のアシスタントが描く細密な背景が好物のようだった。なんてことしてくれたんだ、と思いながら、バガボンドを一通り読んでみたら、これまでリアルな背景にもグッときていたと思ったのだけど、まったくの白バックで繰り広げられる武蔵と吉岡伝七郎の会話なんか特に、より息づかいまで伝わって来て、とても楽しく読むことができた。
読点好きの紙魚も落ち着いたようだから、おみやげにこれまた読点の多い町田康の文庫を1冊を持たせて家に帰らせた。食べ終わったら返しに来ます、と言ってたけど、あまり好き嫌いしないでバランス良く食べな、と諭してあげた。