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肩たたき券

 ブログの更新が滞りがちになっていることが示すように、最近の忙しさは尋常じゃない。というのも最近は京都と東京を日に2回ずつは往復しているので片道2時間半の移動時間でも合わせて10時間くらいかかってしまうので、その合間に落語会に出演したり、打ち合わせをしたりしていると本当にあっと言う間に一日が過ぎてしまう。最近は新幹線に布団を持ち込んで睡眠は車内で済ますようにしているため、その他の時間すべてを作業にあてられているからまだマシとは言え、それでもやっぱり時間が足りないし、何よりお金も足りない。

 なぜそんなに京都と東京を行ったり来たりしているかと言えば、僕が来月30歳になってしまうからである。いや、正しく書けば、僕が来月30歳になると母に気づかれてしまったからである。さらに正しく書けば、僕が来月30歳になるという事と僕が母の日に渡していた肩たたき券などの使用期限が僕が30歳になる前日の2014年6月26日までだという事を母に気づかれてしまったからである。
 お小遣いのほとんどを漫画とゲームに費やしていた僕は、それでも母の日に何かプレゼントしてあげたい気持ちはあったのでそれならと、中学生の頃まで母の日に肩たたき券など、自分の労働力をクーポン化したものを渡していたのだけど、いざ渡したところで大抵最初の1回だけ使ったっきり後は全く忘れられていたのだけど、この度、実家が引っ越しをするにあたって大掃除をしたところ律儀にとってあったクーポンの束が出てきて、しかもそれの使用期限が迫っていると気づかれてしまったのだ。
 その頃の僕はと言えば30歳というのが子供と大人の境目だと考えていて、今思えばわりかし良い勘だと思うのだけど、一生奴隷の様に母親にこき使われる人生は御免だと思いクーポンの使用期限を30歳に設定したのだけど、結果、その使用期限のおかげで、こうして29歳と11ヶ月の僕が毎日2回は京都と東京を往復しもって、労働力を母親に提供しているというわけだ。

 小学1年生から中学3年生まで労働力を母の日にプレゼントしていたわけはあるけれど、当初は100円だったお小遣いも6年生では600円、中学1年生の時は1000円中学3年生の時で3000円にも上がっていった手前、母の日に渡す労働力も少しづつ大きくなっていくのは仕方ないとして、当時の僕はできるだけ自分の好きな時間を増やしたいと思っていたため、労働力を増やさずして、それでもたくさん受け取ったと錯覚させるため、それまで「1枚で10回」だった肩たたき券を小学5年生の時に「100枚で1回」というレートに変えたのだった。それまでは「1枚で10回」券を10枚渡していたのだけど、「100枚で1回」券を10000枚渡すことで、叩く回数は100回と同じにもかかわらず、見かけのかさが増すことで、まんまと、親孝行度合いが増していってると錯覚させていたのだけど、いま、完全にその策に溺れている。

 とにかくスケジュールの間を見つけては実家に帰って、クーポンを使い切ろうとしている母の方を叩いている訳なのだけど、その際に「30回叩いて欲しいから、はいこれ」と渡された3000枚のクーポンを数えるのにとても時間がかかるのだ。こちらとしては早く肩を叩いてすぐさま新幹線に乗り込みたいのに律儀な母は「あたしは算数苦手でよく計算ミスしちゃうから、あんたが確認して」と謙虚なことを言ってくるため、とにかく3000枚を数えるのだけど、これが本当に大変で、何しろ15年ほど前のものだから紙もボロボロになっているし、大きさも適当に切った代物だからまちまちだし、で本当に数えるのに手間がかかってしまう。そうしたら、そんな僕を見かねた母が数えるのを手伝ってくれ、確かに数える時間は短くなるのだけど、そういう細かい作業をしたことでさらに肩が凝ってしまうらしく「20回さらに追加でお願いね」と2000枚の肩たたき券を渡されてしまい、という無限地獄に親子して迷いこんでしまっている。

 さらに自体は深刻化してきたのが一昨日のことで「100枚で1回」というウォンみたいな感じのクーポンを発行したのが小学5年生の時で、そこからさらにお小遣いが増えるにつれ渡す労働力も増やさなければならない、しかしできるだけ労働力は少なくしたいということで小学6年生の時には「1000枚で1回」券を100000枚、中学1年生の時には「1000枚で0.1回」券を1000000枚、中学2年生の時には「100000枚で0.01回」券を1000000000枚、そして本格的に受験勉強を始め、さらに知恵をつけた中学3年生の時には「100000枚で右肩を0.01回」叩くという右肩たたき券を1000000000枚と「100000枚で左肩を0.01回」叩くという左肩たたき券を1000000000枚、という右と左を分けて発券することで見かけのかさを増す作戦をとってしまったため、どんどん枚数を数える時間がかかるようになってしまい、いよいよ1日が24時間では到底まわらなくなってきてしまった。

 そんなわけで最近はブログの更新が滞っているわけではあるけれど、加えて昨日良からぬ噂を耳にした。ここんところ頻繁に実家に僕が帰って来てることに違和感を抱いていた父親が、父の日に渡していた肩たたき券の存在に気づいたようなのだ。父と母は同じ家に住んでいるから仕方がないとして、いま僕が願っていることは田舎に住んでいるおばあちゃんが敬老に日に渡していた肩たたき券に気づかないでいてくれることだ。