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数学と物理と哲学と落語

 最近ブログで書いてる、夏から秋にかけてやれればと思っているとある企画を貫くテーマについて、ちょっと意見を伺いたいなぁと思い、このブログでおなじみの森田真生さんに年明けて初めてメールを送らせてもらったのが昨日の深夜。すぐに返事があって、ちょうど仕事で東京に来られる日だったようで、時間あったら夜飲みませんか?と誘って頂いた。もちろん、と返事して、指定されたbarへ。ビルの3Fにあるのだけど、看板、というかロゴのフォントが素敵で、良さそうなお店。入った時は僕たちだけだったけど、帰るときには超満員だったから人気あるとこなんだろうな。
 あらかじめ森田さんから友達も呼んでます、という話を聞かされていたので想定していたけど、実際に集まったのは僕含めて4人。森田さんと僕と、物理をやられている江本さん、科学哲学をやられている下西さんという4人。もちろんそうなるだろうなぁと思っていたけどやっぱり僕以外の皆は大学の仲間、ということは当然東大。そんな3人に対するは若手落語家。これは変なことになったなぁとニヤニヤしつつ、もともとそういう場が好きだし、加えて僕は学歴は無いけれど、学歴コンプレックスも無いから、いつも通り、というと嘘になるか、自分だけ切り口が全然違うわけだから、いつも以上に積極的に話をさせてもらった。とりあえず、僕の想像では研究者の方々は会ったらまずは自分の研究内容について名刺代わりに話すのではないか、という謎な先入観があるから、僕も、と思い、企画中の会でやるネタについてのテーマから、付随して一昨日くらいに思いついたゾーンの噺のアイデアを、舌打たずとか、第四者、について先生に聞いてもらうみたいにプレゼンした。たぶんこういう文脈の方の方が僕のネタは伝わりやすいと思っていたら案の定で、みなさんすぐに面白みを理解してくださるから、話していてとても楽しかった。この方向はやっぱり意識的に進んだ方が良さそう。野暮ったく書くと、落語文脈や笑い文脈に進軍?するのは当たり前として、僕のネタのある部分はアカデミック文脈?そんなのがあるのかは知らないけど、そういうところにも進んでいくべきなんじゃないかなぁと、粗粗茶を作り出したときぐらいから思い出していて、そういう流れもあって、大学に行こうかなぁと思い立ったわけなのだった。で、去年、森田さんに大学の件を話したら反対されて、大学なんか行かなくても面白い友達を紹介しますよ、と言ってくださって、それが、昨日だったのか、今から思えば。なるほど確かに森田さんと仲が良いだけあってたぶん江本さんも下西さんも大学だったら浮いてるような雰囲気があって、そんな人に、僕が今から勉強して入れる大学で偶然出会える確率なんてめちゃくちゃ低いだろうから、これはとてもありがたい機会なのだった。途中、3人が少し力を入れた話をしだすと途端に彼らが何を言ってるのか分からなくなって置いてけぼりにされるけど、そんな状況を俯瞰で眺めてニヤニヤしつつ、圧倒的に低いレベルから色々質問したりした。
 僕の独演会に来て下さっている方は去年のある時期に何度も話したからご存じだとは思うけど、落語家以外に数学者としての側面も僕は持っていて、いま僕が抱えている数学者としての課題は、『部屋を”いい感じに”明るくする問題』と『幅1メートルの通路問題』で、この問題を解くのが自分のライフワークだと、冗談交じりに宣言していたのだけど、流れでその通路問題の話をしたら森田さんと江本さんに火がついたようで、ペンとノートを使っての議論が始まったのだった。問いとして緩いから当たり前なんだけど、落語家/数学者の僕が設定した問題は、証明しようとしたら意外と一筋縄ではいかないらしく途中までではあるけど、それでも一気に焦点を絞られていくつか具体例を挙げて分解していくうちに、とりあえずの答えが出てしまったのだった。レベルこそ天と地ではあるけど、フェルマーの最終定理をずっと研究してきた人がワイルズさんに先を越されてしまったような感じ、もっと言うと、めっちゃくちゃ修行して強くなってさぁこれから魔王を倒しに行こうと思ったら別のパーティーに魔王を倒されてしまった勇者のような、なんかそんな心持ちになったのだった。平和になって嬉しいのだけど、なんか釈然としないようなそんな感じ。それにしてもまじかでそういう人たちの議論風景を見れたのが嬉しかった。僕は大学は1年で辞めたからそういう雰囲気を味わったことがなかったから。問題設定したのが僕だから当たり前っちゃあ当たり前だけど、俺理系だから、文系だからみたいなことは関係なく、数学畑、物理畑の2人に混じって哲学畑の下西さんも同じように議論に加わる、というのが何か、本来の学問を垣間見た気がした。僕と接点があるまわりのレベルが彼らに比べると低すぎるからなのだけど、僕がこういう話をしたら、すぐに僕は文系なんで、みたいな感じでエスケープされることが多くて、というかほとんどで、そういう僕も哲学とか歴史みたいな話になると理系なんでとエスケープしちゃうから同じことなのだけど、本当はそういうことじゃないよなぁと。彼らはちゃんと勉強しているからお互いの共通言語が出来上がっているようで、例えばある哲学者の話になったら基本の著作はみんな読んでるし、文学の話になったときも3人が3人とも色々と話を持っていたし、そういう前提を共有したうえでテーブルにつく、というのが一番最初のルールなんだろうと。その上で印象的だったのは、僕なんかは話を聞いていてとりあえずうんうん相槌を打つのだけど、江本さんは少しでもひっかかるところがあったらすぐに質問されてて、しかもそれが何回も何回もあって、そういう学問に対して厳密な姿勢というか真摯な振る舞いをするというのは僕も見習いたいなぁ思った。ただ見習おうにもそういう環境に暮らしてないからやりようがないのだけど。また一方で30歳手前の男が集まっているから当然恋愛の話、というか下ネタの話にもなるわけだけど、そっちの方も僕なんかが到底及ばないくらい突き抜けておられて、そのあたりも見習いたいなぁと思わされた。それにしても普段は感じることのない刺激に満ち溢れた良い夜だった。帰り道、森田さんと駅まで歩いていると道中で山縣良和さんとバッタリ遭遇できたのにも驚いた。本面白かったです、とだけ伝えられてよかった。