駅前ロータリーで思い出し笑いをしている子供を見かけたので、立ち止まってしばらく見ていた。ケラケラケラと本当に笑っていて、あたりには笑うべき出来事とか無さそうだったし、話し相手もいなそうだったし、それでもケラケラケラと笑ってたから思い出し笑いだなぁと思ったのだけど、あの子が何を思い出して笑っていたのかは分からない。
　しばらくの間見てるとケラケラケラという笑い方に混じってヒィーツヒィーッという新種の笑い音も加わって、またケラケラケラ、ヒィーッヒィーケラケラ、ヒィケララヒィーッ、と本当に愉快に笑ってて、その時間があまりにも長かったから、よっぽどロングスパンの面白い事を思い出して笑っていたのか、それともいくつもの面白い事を連続して思い出して笑っていたのかは分からないけど、水の出ているところを見たことのない噴水広場の前で子供がケラケラケラ、ヒィーッヒィーケラケラケラと笑っていたので、僕は本腰を入れて見張っていた。
　一瞬我に返ったような顔を見せてから、少し間があって、ププッ、プ、プハハヒィヒィッ、ケラケラケラカタカタカタカタプヒヒケラカタトン、と笑い出した子供を見て、僕はフフフと笑った。思い出し笑いを見て笑っている自分を思い出して、今、僕は思い出し笑いをした。

　思い出し笑いには２種類ある。１つは体験した出来事を思い出して笑う、初歩的な思い出し笑い、もう１つは体験していない出来事を思い出して笑う、応用的な思い出し笑い。応用的な思い出し笑いで大事なのは、体験していない出来事を妄想して笑うのでなく、あくまでも体験した気になって、一度体に落とし込んでから思い出して笑うことだ。
　僕はよく高２の夏休みに海の家でアルバイトをした時のことを思い出して笑うのだけど、僕は高校時代、アルバイトをしたことがない。そして高２の夏休みに海の家でアルバイトをした時のことを思い出して笑ったことを思い出すと、バイトしたくても校則で禁止されていたことを思い出して、思い出し泣きしてしまう。他にも、野球のユニホームを着るとつらかった部活のことを思い出して冷や汗が止まらなくなると思うのだけど、１度も野球のユニホームを着たことがない。そして酔っぱらうと、死んだときの事を思い出して泣くのだけど、僕は死んだことがない。
　
　などという考え事から我に返ると、まだ子供がイィヒヒフフケラケラカタトン、トンパパ、ピッピ、フヘヘイィーッヒヒッ、フヘッホ、ピッパプピピピ、イララレラハピャフヘホホ、と盛大に笑っていて、あまりにもおかしかったのでフヘヘと僕も笑った。
　引き続き子供を観察していると、何やら地面を見てはヒヒヒと笑っていることに気づいた。これはやられた、あの子は思い出し笑いをしていたのでなく普通に笑っていただけなのだ、と腹が立ち、引き続きイヒィウヘヘ、ケラピッピペポポポ、フヘハラテケテケトントン、と笑っている子供の側まで寄っていきそっと地面を見たら、東京ドームの前でピースサインをした関口宏の写真が落ちていた。
　不本意ながら、それを見て僕もブハハと吹き出してしまった。