News

調子

自分はごくごく普通の人間で、特別な才能などあるわけでないし、強いて言えば今まで出会ってきた多くの人よりも少しだけ小賢しい計算に長けているくらいなものであるけど、そんな自分が一体何を成し遂げられるというのだろう。
誰もがそう思っているのだろうけど、ひょっとしたら自分は他人よりも少しは好不調の波が激しい人間で、良くなかったこの前はそのせいで、いま何となく良いのもそのせいで、というようなことを考えたりしていて、
こんな風に気取って書いているのは、そういう本を読んだ後だからで、それは本当に痛いことだけど、その痛さを感じられなくなるくらい、自分が好きだという、自分がいたりする。

今日はいつになく調子が良いのだろう。それは思っていたよりも外が温かかった、だとか、そんな単純な理由なのかもだけど、意外とその単純なところが生きていくことの本来なのかもしれない。などと引き続き自分に酔う自分は続く。
調子が良さそうだなあと思ったのは、昨日から青梅街道を漂う黄色い落ち葉がきれいだなぁと思っていたのだけど、今日の信号待ちの時にみた落ち葉や日が沈む直前みたいな空気とか、あまり広くない東高円寺の空だとかが本当にきれいに感じられたからだったり、駅前へ向かう道すがら、何となく口ずさんだ即興曲がいつもよりも気持ち良いリズムとかフレーズをたくさん含んでいたりだとか、そんな些細なことでしかないけど。
喫茶店の前に何だか小腹がすいて、久しぶりにダブルチーズバーガーを食べようとマクドナルドに入った。そこで坂口さんの新著をしばらく読んで、気持ちがよりグゥーと上がってきたから、喫茶店に行くのはやめて、少し歩きながら考えごとをしようとマンハッタンを目指すことにした。あまり良い上着を持ってなくて寒い冬が苦手だけど、考えごとをするには一番良い季節なのかもしれないなぁ、などと思いながら一路中野を目指す途中で思い立って座高円寺のアンリファーブルへ寄ってみることにした。
どうせならカッコつけモードを満喫しようと、おしゃれな空間で赤ワインでも飲みながら考えてみようと思ったからだ。来年2月、本当に連日お世話になる高円寺演芸まつりのスタッフさんにご挨拶できるかもしれないし。
そういう良い恰好をしようとした時は大抵バチがあたるのは僕の世の常で、案の定アンリファーブルは定休日だった。ま、そんなものか、と思い、改めてマンハッタンへ向かおうと思ったけど、定休日ですが場所は解放しています、という文章が気になって、とりあえず座高円寺へ入ることにした。
なかなか来ないエレベーターを待ち、2Fに上がると、店は休業だから完全に無音の空間が広がっていた。贅沢な間隔で置かれたオシャレなテーブルにポツンポツンと読書や何やら作業をしている人がいた。どなたも結構お年を召していて、それがまた、良い雰囲気の構成要素になっている。手前のテーブルに座り、これを書く用のノートパソコンと、坂口さんの本、表紙が可愛い来年の手帳を見せびらかすように置き、パチパチやっていたら、篠部さんにお会いした。高円寺演芸まつりのスタッフさんだ。そこで働いているのだから会う確率はめちゃくちゃ高いとはいえ、カッコつけモードに入っている自分にとってはこの偶然は十分すぎるほど素敵なものだった。少し話をして、思惑通り手帳のかわいさを見せつけられたからほくほくしながら引き続きパチパチやっていると、携帯が鳴った。最近知り合って、今度飲みにいきましょう、と言っていた方からだった。内容はというと、明日の夜、空いてたら一緒に飲みませんか?ということだった。二人はお知り合いだから確率が低すぎることは無いとはいえこのタイミングで、坂口も来ると思います、と言われたから驚き、笑った。ともあれ、生きているとこういう伏線回収は至る所で勃発しているのだろう。区切りがなく、地続きの流れを漂うなかではどれが伏線でどれがそうでないかは気付きにくいし、というか伏線は回収して初めて伏線となるからそもそも気付けないものなのかもしれないけど、それにしても相変わらず調子が良いと思えている時は、素敵な偶然がたくさん起こるから本当に楽しいものだ。どうせまた調子が悪くなるだろうに、今はそんなことが頭に過ぎることすらなくほくほくしている自分がいる。そして急にこんなものを書いている自分が恥ずかしくなってきたから、止めて、やるべき作業に戻ろうと思う。明日も調子が良かったらいいんだけどな。

131210