News

水滴々 人歩々

いることになったから赤本を買おうと思い、新宿の大型書店を回るも欲しいものがなくて無駄足だったなぁと思っていた時に『水滴々 人歩々』という展覧会の看板を見つけた。

紫舟さんのことは皆さんと同じくらいには知っていたのと、知り合いが最近ツイッターに「行った」と書いてたのと、何より入場無料だったので「これはラッキー」と寄っていくことにしたのだけど、困ったことに会場はグッチの店内にあるのだった。

自分用にも、プレゼント用にもグッチの商品なんて買ったことないし、もちろん店内に入ったこともない。もっと言えば高校時代に周りの友達がプラダの財布とかを買ったりしだした時もいわゆるブランド品には興味が無かったし、貧乏をこじらせた大学中退後はブランド品を好む女性すら苦手に感じるほど、劣等感からくるブランドアレルギー持ちの自分が、よもやグッチの店内に入ることになるとは。

間の悪いことに、昨日は誰と会う予定も無かったのでズボンはユニクロで買った汚いチノパン、パーカーは友達に勧められた原宿で買ったオシャレなやつ、が着過ぎで黒ずんでボロボロになってしまったやつ、Tシャツは高校の体操着なのだった。人と会う予定が無いからと言って28歳にもなって高校の体操着を着ることはなかろうと思うのだけど、体操着というのはとても丈夫にできているからまだまだ現役なのだ。

そんな恰好で男性も女性も細い黒っぽいスタイリッシュの権化みたいな装いをした店員が待ち受ける店内に入っていいのだろうか?怒られないだろうか?みじめな気持ちにならないだろうか?なぞと考えながら、それでも「せっかくだから展覧会を見たい」という気持ちに後押しされて入店を決意したのだった。

ありがたいことに、展覧会のある3Fイベントスペースへの入り口は正規の入り口とは別になっており、エスカレーターで外から直接上に上がれるようになっているのだった。オシャレ感ただよう香りを嗅ぎながら「さすがの心遣いだなぁ」と感心していたのもつかの間、2Fに着くと横には下りのエスカレーターしかない。「3Fへのエスカレーターは反対側だ」。恐るべき事実を受け入れようとする前に「いらっしゃいませ」とラグジュアリーな男性がラグジュアリーに話しかけてきて、何もしていないのに「すいません」と謝った。

 

そこから反対側にある上りエスカレーターまでの記憶は無い。

たぶん下を見ながら、もっといえば目の焦点を合わさない努力をしながら足早に向かったのだろう、気が付いたら3Fに居た。

展覧会場自体にはほとんど人がおらず、おかげで冷静に作品を見ることができた。

一番好きだったのは最後にあった「瀧心図」というインスタレーションで、横にあったイスに座ったり、立ったりを繰り返しながらずいぶん長い間居続けてしまった。

作品が素晴らしかったのもあるけど、帰るためにはまた2Fのラグジュアリーゾーンを通らなけらればならないのは自明で、なかなか勇気が出なかったからでもある。

DSC_0409   DSC_0411