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クイックジャパンで新連載

・すこぶる春。暖かいし、風が柔らかい。

 

・今月からクイックジャパンで連載が始まる。『次世代落語家研究所』というタイトルは担当編集の方が付けてくれた。自分だとちっぽけな美学が邪魔をしてとてもじゃないけど思いつかないタイトルだったりパッケージ感だけど、僕に興味が無い人に届けようと思ったらそれくらいのざらつきは必要なんだろうと思う。頼もしい。

 

・連載1回目にも書いたけど、クイックジャパンは世代的に特別な存在だ。今ほどネットで情報を集めることができなかった当時、クイックジャパンから本当に色々なものを知った。そんな媒体で落語家として連載できることが嬉しくないわけがない。

 

・怒られるかもだけど第1回の冒頭を転載する。

 

—「立川吉笑」と書いて「たてかわきっしょう」と読む。職業は落語家。ぶっきらぼうな書き出しなのは文字数が限られているから。いま僕は興奮している。与えられた文字数では納まるはずのない想いに急かされるように、この原稿と向き合っている。興奮しているのは、十代の終わりから二十代前半にかけて、貪るように読んでいたクイックジャパンで連載をできることになったから。当時の僕は千円の本を買うだけの余裕もなく、特に刺さる特集号以外は先輩の家で読ませてもらっていた。「笑い」の文脈にしかアンテナを張れていなかった当時、QJきっかけで知ったカルチャーがどれだけあったか。QJでサケロックを知った2005年。気になってすぐに「LIFE CYCLE」を買いに行った。2ドラム・1VJという稀有な編成の「d.v.d.」のライブもすぐに行ったっけ。そんな雑誌で「落語家」として連載できる。こんなに嬉しいことはない。誰かにとって(というかQJ読者の大勢にとって)はまだ見知らぬカルチャーであるはずの落語。その落語と、これを読んでいるあなたとが邂逅するためにこの連載は存在する。(「次世代落語家研究所#1より」)—

 

・クイックジャパンのことを考えると、駒場東大前に住んでいた頃を思い出す。イクイプメンというユニットで「新しい笑い」を作ろうと尖りに尖っていた頃だ。同居していた少し年上のディレクターさんの部屋から勝手にクイックジャパンとか映画のDVDを引っ張り出しては貪るように観たり読んだりしていた。

 

・そんな媒体だから「初めからエモく書こう」とだけ決めていた。34歳(今年35歳)にもなると、どうしたって昔みたいに、いつだってヒリヒリして尖っていることなんてできない。この1年、どんどんそういうモノを失っていることに気づいている。もちろん「まだまだ自分はこんなものじゃない」と思っているし、自分の可能性を信じられてもいる。一方で、当時からは考えられないくらい快適な部屋に住めていたり、本屋に行っても「何となく」という理由で5冊くらいまでだったら気兼ねなくカゴに入れられるようになった。昔の自分から見たら「好きなことをやって、人並みの生活ができる」というのは憧れの対象だったから、間違ったらそんな自分に満足してしまってもおかしくない。

 

・逆にこの年齢になって20代の頃みたいに夢や希望を吐き出している場合じゃないとも思う。とっととなりたい自分になれよ、と自分にツッコミを入れたくなる。だからなのか、最近は昔ほど夜中に悶々とした、でも生きてるなぁって実感できる、あんな時間を過ごせなくなってしまった。

 

・この連載は駒場東大前に住んでいた頃の自分。ブックファーストで立ち読みして、神山町のベローチェでブレンド1杯で8時間とか粘ってネタを作っていた自分。あの頃の自分に向けて書くことにした。あの頃の自分が読んで、落語とか立川吉笑に興味を持ってくれたらいいなぁと思って書いている。

 

・作業場の引っ越しで昔の色々が出てきたり、空気階段のラジオで銀杏BOYZのことを想い出したり(まさに今も聴いている)、当時の主戦場だった表参道ラパンエアロでひとり会が始まったり、クイックジャパンの連載が始まったりが重なって、そりゃエモくならない方がおかしいだろうというような心持ちになっている。

 

 

(クイックジャパン76号に載っている当時の僕)

 

・同じような夜を過ごしている当時の僕や、あなたに向けて書きました。大事な連載になると思っているので、見かけたら読んでやってください。

 

—十八歳の頃から「自分にしか作れない笑い」を追い求めて生きてきた。当初の夢だった「漫才師で天下を取る」はもはや見る影もないし、まさか自分が落語家になるなんてボケでも思いつかないくらいのことだった。テレビで同年代のお笑い芸人が活躍しているのを見ても嫉妬すらできなくなってしまった。あの頃思い描いた理想像とは全く違う人生を歩んでいる。それでも三十四歳になった今も相変わらず喫茶店に入り浸ってはどんなネタをやろうか夜な夜な考えていて、そんな夜だけはあの頃から変わらず地続きだ。(「次世代落語家研究所#1より」)—

 

・面白いものを作りたい。