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僕と往復書簡をしませんか?

『水道橋博士のメルマ旬報』での連載で

往復書簡を始めることにしました。

そこで、僕と往復書簡をしてくれる方を募集します。

 

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[募集内容]

・全5回、メールのやりとりをしてくれる。

・多くても一通あたり2000字以内が目安。(短くてもOK)

・月に1回、中旬〜下旬にかけてが締切。

・頂いたメールはメルマ旬報に公開される前提で。

・協力者には吉笑からささやかなプレゼントをお贈りします。

・4月18日必着

 

上記を確認のうえ、

僕と往復書簡を始めたい方は

下の一通目の返信を

 

tatekawakisshou[at]gmail.com

 

まで返信を送って頂ければと思います。

([at]は[@]に変換してください。)

 

 

応募者多数の場合は

僕個人が選考した上、採用者に直接返信をします。

 

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1通目「吉笑→あなた」

 

初めまして。立川吉笑です。

誰に届くのか、というか、

そもそも誰かに届くことがあるのかすら分からないまま、この文章を書き始めています。

 

これを読んでくださっている時点で、たぶんご存知と思いますが、僕は落語家をやっています。

2010年、26歳の時に師匠である立川談笑に入門しました。高校を卒業して、当初はお笑い芸人になりたくて

関西でそういう活動をやっていました。

たくさんの挫折を経験し、またいくつかのご縁を頂戴し、気づけば東京に出てきて、落語家になりました。

 

落語家なので、

落語をやることが基本的には僕の仕事です。

たまに文章を書かせてもらったり、

テレビとかラジオに呼んでもらったりしています。

ありがたいことに落語家になってから一度も

アルバイトをしたことがありません。

 

お笑いの世界では、少しずつテレビに出始めているような、僕から見たら憧れの対象である先輩も、普通にアルバイトをされていました。

それが当たり前だと思っていました。

だから、僕にとってはお笑いと地続きのつもりの落語という表現活動で、まさかアルバイトをせずに生活ができるなんて当初は思っていませんでした。

 

冒頭で、

「誰に届くのか、というか、そもそも誰かに届くことがあるのかすら分からないまま、この文章を書き始めています。」

と書いたけど、思えば文章の仕事はいつだってそんな感じだと気がつきました。

落語やお笑いは観客の反応が分かりやすい表現方法です。というか、「笑い」という他者の反応ありきの表現方法だから、基本的には目の前のお客様に楽しんでもらうことが絶対的な目的です。

 

その前提の上で「自分にしかできない落語」とか「自分がやりたい落語」を追い求めるのが落語家という仕事なのだと思っています。

落語家は「アーティスト」であると同時に「サービス業」でもあって、そのバランスが大事だとは、よく言われていることです。

 

 

誰宛てかも決まっていない状態で

往復書簡の一通目を書き出すのは初めての経験なので、

どういう感じに書くのがいいのか迷っています。

とりあえず、いくつかフックになりそうなことを書いた気ではいます。

 

 

思えば、知らない人とやりとりをするのは初めてじゃないと気がつきました。

中学2年の頃、家にインターネットがやってきました。

 

しばらくして、仲間内の中で流行ったのは「チャット」です。

たしか『都会の中の小さな森の公園』みたいな名前だったと思うんですが、学校が終わると一目散に帰宅して、

わざわざネット上で集まりチャットをしていました。

 

そのサイト内で

僕は当時大好きだったドラゴンアッシュの降谷建志さんから拝借して「けんじ」と名乗っていました。

 

最初は友達同士でやりとりをしていただけだったのが、

サイトを使ううちに

他のユーザーとも交流を持つようになり、

少しずつ友達とはチャットをしなくなりました。

明日学校に行けば会えるんだから、当たり前の話です。

 

そんな中、僕は同い年の「きょむ」という女の子と

親しくチャットするようになりました。

同い年かどうか、そもそも女の子かどうかも分からないんですが、ネット初心者だった僕は疑うことなく夜な夜な時間を合わせては「きょむ」と名乗る見ず知らずの誰かと、他愛もないやりとりをしていました。

 

ネット越しでやりとりするだけだと

満足できなくなった僕たちは

何かの流れで年賀状を送りあおうことになりました。

「プリクラも張り合おう」というようなことになり、

精一杯のおしゃれをして、

初めてプリクラを撮りに行ったことを覚えています。

 

「きょむ」から届いた年賀状は、

とても綺麗な字で書かれていました。

 

差出人として書かれていた「きょむ」の本名を

今でもはっきり思い出すことができます。

友人とのプリクラに写る「きょむ」は茶髪で、

とても垢抜けていました。

 

それまで異性とは縁遠かった僕に

突然遠くに住む茶髪の女の子から年賀状が届いたものだから、少し家庭内がざわつきました。

 

さて、そのあと別に「きょむ」とどうなったとかはありません。本当は甘酸っぱい初恋の話なんかに発展できれば良かったんですけど、その頃にニンテンドー64が発売され、仲間内の関心は大乱闘スマッシュブラザーズに急転換しました。僕も気づけばチャットサイトにアクセスしないようになりました。

 

 

「きょむ」との年賀状のやり取りでの教訓は

「俺の名前って匿名性が全然ないやん」

と言うことでした。

 

僕の本名は人羅真樹(ひとら まさき)と言います。

試しにいま「きょむ」の本名を検索したら

何人かのFacebookページが出てきたけど

当時の「きょむ」は特定できそうにありませんでした。

でも、もし同じように「きょむ」が「人羅真樹」と検索をしたら、間違いなく僕にたどり着きます。

 

いかがわしいマッサージ店の予約とか、

出会い系サイトの登録とか、

大人になってから

何度か少し後ろめたい気持ちで名前を言わなくちゃいけないときがありました。

そんなとき一瞬「人羅真樹」って言いたくなるけど、

すぐにそれが自分だとバレてしまうと気づき、

いつの間にか、そういう時は「山田けんじ」と名乗るようになりました。

 

あなたは誰ですか?

お返事お待ちしております。

 

2019年4月4日

立川吉笑