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てらだこうじとバカリズム

・かなり暇な11月12月を過ごしている。落語会の予定がどういうわけか通常の三割減という感じ。仕事がないのは、時間があるということだから、忙しくなる前に色々な準備をしておこうと思う。とはいえ、やっぱりもう少し落語を演りたい。

 

 

・『縦型落語動画』。年末進行でスタッフさんが忙しいこともあって、説明会以降、ほとんど進められていない。キービジュアルのリニューアル版が出来がったくらい。説明会でも話したように根本のテイストをどうするか問題がまだ解決していない。現行の落語っぽくない感じでいくのか、もう少し落語的な和のテイストに寄せていくのか。

 

 

・九龍ジョーさんが一日バーテンをやられているということで、用事が全部終わった夜中にゴールデン街のHAPPYという店へ行ってきた。2時半とかだったかな。そこで、てらだこうじさんとお会いした。twitterなどで作品は目にしきたし、面白いなぁとも思っていた方。少し前から九龍さんが最新作の『2年8ヶ月』を激賞されていて、読まなくちゃなぁと思っていたけど、まだ買えてなくて。

 

 

・シラフで明け方のゴールデン街のお祭り騒ぎにはやっぱりついていけなくて、15分ほどだけ滞在してとぼとぼ帰った。ご縁ができたこともあって、早速買った『2年8ヶ月』がべらぼうに面白かった。最初は、WEB上で試し読みもできるおばあちゃんの上半身と下半身がちぎれる話から始まる。落語『胴斬り』と同じ切り口だ。上半身ばあちゃんが座布団の上に座って?ゲームをしてるカットと、亡くなった下半身ばあちゃんの遺影が下半身の全身(?)写真というのが特に気持ちよかった。

 

 

・この時点で自分のツボと重なる部分が多いし「あー、これは好きなマンガだなぁ」と思った。で、てらださんの作品はさらにここから展開がある。僕がやりがちなネタ作りだと、できるだけ要素をそぎ落として1つの状況をどれだけ掘り下げることができるかという感じになる。今回だったら「上半身ばあちゃんと下半身ばあちゃん」というギミックだけあって、そこからひたすらゴリゴリと掘って掘って掘っていく。

 

 

・現在、僕が一番好きなネタを作るのはバカリズムさんで、めちゃくちゃ影響を受けている。初期作品からバカリズムさんのことが好きなんだけど、ある時からだんだん作られるネタの仕組みが変わっていったと思っていて(それはあからさまにレベルが上がっていっているということ)。どこで、そう感じるのかなぁと思っていたら何かの機会で升野さんが僕が好きな最小限の要素で作っていくネタに対して「あー、若い時はこういうの好きですよねー」っておっしゃっていた。さらに別の機会で「昔は設定一つでできるだけシンプルに作っていたけど、最近はそこから最終期に設定が壊れるくらいまでの展開を用意したい」とおっしゃっていた。(うろ覚え)。

 

 

・そんな現在の升野さんのネタ作りの特徴が端的に出ていたのが『OV監督』で「お母さん」がテーマの時に作られた作品。升野さん本人がロケ番組に出ているという設定からネタは始まる。昔住んでいた街を紹介する流れで、行きつけだった定食屋に入ると当時お世話になったおばさんと再会する。「この方は僕の東京のお母さんなんです」。

 この時点で、「なるほど『東京のお母さん』はまたいい切り口を先にやられちゃったなぁ」と思った。

 同時に、このあと自分だったらどう展開するかを考え始める。僕だったら、このあとにフリとして「東京のお父さん」を出しといてそこから「東京の従兄弟」「東京のお義母さん」などと家族関係で広げていく。「東京の他人」「たまたま東京に来ていた鳥取のお母さん」と少しずらし始めて、「相方の東京のお父さん=僕の三重の従兄弟」とややこしい感じを足す(このあたりは完全に僕の作るネタっぽい雰囲気だ)。

 最後は人じゃなくてモノまで膨らませて「東京の電信柱」から「東京の雑草」「東京のゴミ」くらい価値のないものに触れていく。そのあたりがオチになるのかなぁ、などなど。

 

 

・で、結果、升野さんの「東京のお母さん」ネタはどうなったか。「東京のお母さん」と別れたあと、別のお店に入る升野さん。するとまた別の女性と久しぶりの再会を果たし「この人も僕の東京のお母さんなんですよ」と。「あー、東京のお母さんが複数人いる」っている方向か。と「自分では思いつかなかったけど、やられたら確かに面白い」という切り口が飛び出す。

 当然ながらこのあとも、いく先々で東京のお母さんと遭遇し、最後はお世話になってた八百屋のご夫婦を紹介する時に「この方達は僕の東京のお母さんたちなんです」とおっさんも一括りに「東京のお母さん」に入れてしまう。めちゃくちゃ升野さんっぽい。で、最後はそこから急に場面が転換して浜辺の映像。東京のお母さんがずらっとビーチにうつ伏せになっている(八百屋のおっさんも)。誰が本当のバカリズムの「東京のお母さん」かを決めるためにビーチフラッグで対決するという展開。八百屋のおっさんが優勝して、真の東京のお母さんに選ばれた時点で終了という。

 

 

・このネタを見た時は、特に自分も得意としている土俵だったからこそ圧倒的なネタ作りの力の差を痛感させられた。

 そしててらださんの「上半身ばあちゃん・下半身ばあちゃん」のネタを読んでたらその後に「左半身じいちゃん」と「右半身じいちゃん」が出てきた。なるほどなぁと。左右で分けると上下にはない右脳と左脳の要素が入れられる。論理的に特化した人格と感覚的に特化した人格。これは面白いなぁと。(昔作ったギミックで、いずれ形にしなくちゃだけど「宇野」と「佐野」という二人が出てくるネタを作ったことがある。右脳=宇野、左脳=佐野、っていうこと。これも思い出した)

 

 

・てらださんの「上下ばあちゃん、左右じいちゃん」ネタはここで終わりだったけど、升野さんだったら最後、どうされるかなぁとか考えながら、『2年8ヶ月』を読み進めると、途中でガツンと殴られるような展開が用意されていた。なるほどこれは1冊の単行本として、最終期に設定が壊れるくらいまでの展開が用意されているのかと。ここまで行けるのか、とヒリヒリした。

 

 

・「縦型落語動画」は榎本俊二さんの『ムーたち』を下敷きにしている。ギャグ漫画のネームを作る感じで頭を使い、これまで50本くらいのネタを作ってきた。「落語家としては」これまでにないモノを作れている自信はあるけど、外の世界の作品と並べた時にまだまだ強度が足りてないとハッとした。作った50本をザルの目を細かくして再び精査しなくちゃなぁ。

 

 

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