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つかの間

 「付かぬ事を伺いますが、、、」

と声を掛けられたのは新宿駅でのことだった。丸ノ内線から小田急線へ乗り換えるべく駅構内を歩いていると不意に横から声を掛けられた。

 「付かぬ事を伺いますが、、、」
 
 突然声を掛けられて驚いた僕は、これから知らない人に何か伺われるのかと想像して少しだるい気持ちになった。しかもその伺われる何かが付かない事なので尚更だるい気持ちになった。もしこれが付かぬ事でない事ならまだだるさはマシだっただろうに、なんしかこれから伺われる何かは付かぬ事だと判明したので、すなわち付かぬ事でない事を伺われるよりだるくなるとも判明したのだった。
 
 「2つ判明をしました」
 
 と言おうと思ったけど大人気ないのでやめた。言おうとした事が大人気なくない事だったなら言おうとした通りに言おうと思ったけど、言おうとした事が大人気なくない事でなかったから、言おうとした通りに言おうと思わなかった。ふぅー、と一息ついてから
 
 「本当に付かぬ事なのですか?付く事ではありませんか?」
 
 と質問した。もし付かぬ事でなかった場合、必要以上にだるいと思っている今の自分と、未来のだるさとのバランスが釣り合わなくなってしまうのでだるさの行き場に困ると思ったからだった。
 
 「はい、付かぬ事を伺いますが、、、」
 
 と言われて安心した訳ではあるけれど、一方で、これまで僕は付く事を伺われたことがあっただろうかと考えた。

 ①「付く事を伺いますが」→言われたことがない。

 ①より僕が付く事を伺われたことは無さそうだが、本当に付かぬ事だけ伺われてきたのか、胸に手を当てて考えてみた。
 
 「本当に付かぬ事だけ伺われてきたのか?そしてなぜ胸に手を当てているのか?」
 
 自問自答を繰り広げる中で、そもそも付かぬ事とは?という真っ当な疑問にたどり着いた。グーグルによると付かぬ事とは『前の話と関係のないこと』とされていた。となると、前の話と関係ないと言うより、前の話すらしていなかった我々であるから確かにこれから伺われる何かは付かぬ事のようだった。
 
 「失礼しました。それで伺いたいこととは?」
 
 と聞くと、
 
 「付く事を伺う事はできるのでしょうか?」
 
 とのことだった。

 「風向きが変わった」

 と僕は思った。僕が付かぬ事を伺われた時にそのまま伺われたら「付かぬ事を伺いますが、付く事を伺う事はできるのでしょうか?」と正しく付かぬ事を伺われたのに、付かぬ事を伺われた時に「本当に付かぬ事なのですか?付く事ではありませんか?」などと会話をしてしまったが故に、もはやその質問は付かぬ事でなく付く事になってしまったのだった。

 反省したのもつかの間

 「できると思います」

 と答えた。

 「ありがとうございます」

 と言われた。ちょうど小田急線の改札に着いたので切符を買って下北沢へ行った。