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料理のさしすせそ

 今年の6月で僕は30歳になる。「その理由は?」と聞かれたら場合は「僕は1984年生まれだからです。」と答えれば聞いた相手はグウの音も出ないだろうし、そもそも相手からグウの音を聞いたことが、そもそも無い。ちなみに僕は今年の6月で30歳になるけれども、同じように私も今年の6月で30歳になるし、さらに言えば俺も今年の6月で30歳になる。机上の空論では、あっしも、おいらも、あたいも、余も、同じく今年の6月で30歳になると思われるのだけれども、29年間生きてきて、あっしやおいらやあたいや余という一人称を使い慣れていないので今のところピンときていないので、できることなら6月までにあっしやおいらやあたいや余を使い慣れて、一つでも多くの一人称に30歳を迎えさせてあげたいと思っている自分は僕だ。僕ちんではないし、朕でもない、僕だ。
 30歳を迎えるにあたって、一つの目標を立てたのもまた僕であり、その目標とは料理をできるようになるということだ。これまで僕は料理をほとんどしてこなかったし、ゆえに自炊というものはせずに、基本的には他炊で栄養分を補給してきたのである。今年は自分の自分による自分のための炊飯、略して自炊することを目標に決めたので、これまでのような、他人の他人による自分のための炊飯、略して他炊に頼ることのない暮らしをしたいと僕を筆頭に、私、俺、と3つの一人称が願っている。
 ということで、最近はもっぱら料理の勉強をしている。まずはとにかく「料理のさしすせそ」を覚えなければどうにもならない、と何かの本で読んだので今年の元旦から「料理のさしすせそ」を覚えることに躍起になっている。皆さんは「料理のさしすせそ」をご存じだろうか?これは料理する際に入れていく調味料の順番を表したもので、つまり「さ=砂糖」「し=塩」「す=酢」「せ=せうゆ=醤油」「そ=味噌」であり、味付けする時にこの順番に入れていけば失敗しにくいとのことである。ただ、ここで気をつけておく必要があるのは、味付けをする時に必ずこの「さしすせそ」を入れる必要は無いということだ。僕はこの「さしすせそ」の存在を知った時に「これで自分もおいしい料理が作れる」と感動して、焼き飯を作ったのだけど、いざ味付けの段になって砂糖から順番に入れていったら、3つ目の酢が熱された蒸気を吸い込んでしまいむせにむせた思い出がある。おかしいなと思い、焼き飯のお客様センターに問い合わせをしたら酢は入れなくて良いとのことだった。ちなみに味噌も入れないくて良いとのことだった。つまり「料理のさしすせそ」は料理する時に必ず入れなければならない義務調味料ではないということなのだ。
 また、そもそもなぜ「料理のさしすせそ」なのか、ということも落ち着いて考えると腑に落ちない。確かにさしすせそ、はサ行だから、たとえば「料理のいめりあひ」のような意味の無い文字列に比べると「料理のさしすせそ」の方が覚えやすいのではあるけど、これは僕だけじゃなく、これまで何人もの僕が料理の勉強を始めて、この最初の「料理のさしすせそ」を覚えられず躓き、そして料理を諦めてきたと思うのだけど、そもそも、「料理の何行」だったのか、覚えるための補助線が何もないのだ。サ行だと覚えていれば50音は覚えているからすぐに「あっ、さしすせそ」だと思いだせるのだけど、何行か覚えられなければ「料理のあいういえ」なのか「料理のたちつてと」なのか、分からず、ゆえに、「料理のあいうえお」などと勘違いしてしまった暁には砂糖や塩などはいれずに「あ=味の素」「い=イカ墨」「う=ウェイパー=味覇」「え=XO醤」「お=オイスターソース」を誤っていれてしまいかねない。ただこの場合、味の素やら味覇やらを擁する「料理のあいうえお」は、たまたま旨みの塊みたいな構造になっており、正直「料理のさしすせそ」よりもおいしくなるのだけど、それでも本来の覚えるべき「料理のさしすせそ」ではないため多少の罪悪感は拭えない。僕は「料理=作業=サ行」と覚えようと思ったけど、色々と勉強するうちに料理が楽しくなってきてしまいどうしても「料理=作業」と思えなくなってしまったので、いまだに「料理の何行」だったのか覚えられていない。
 というか、そもそも「し」が塩なのか醤油なのかが分かりにくいし、醤油をせうゆだから「せ」というのも無理やり感が否めない。味噌に至っては本当は「み」だろうに、なぜ後ろの文字を持ってくるのか、その説明もしてもらっていないし、してみると「料理のさしすせそ」そのものに、ある種のきな臭さを感じずにはいられない。大抵こういう場合は政治が絡んでいるか、もしくは大手広告代理店が裏で糸を引いていることが多いので、この場合もたぶんそうだろう。「さしすせそ」をゴリ押しすることで利益を得られる団体が黒幕だと思うのだけど、いまのところ「さしすせそ」で儲けてる団体を僕は調べられていない。もしかしたら日本人の苗字に「佐藤」が多いことと、「料理のさしすせそ」が「砂糖」から始まることに、何か秘密が隠されているかもしれないけれど、これ以上調査を続けると家族に危険が及ぶかもしれないので、なかなか動きだせずにいる。